
全然知らない分野の法律相談が来たらどうしよう。
的外れな回答をしてしまいそうで怖い…

しっかり勉強する時間はとれないから、大事なポイントだけさくっと抑えたい。
そんな若手弁護士にむけて、実務で頻繁に相談を受ける分野を手軽に学習できるおすすめの書籍を紹介します。
- 現役弁護士がおすすめする
- 頻繁に相談を受ける法律分野について、ざっくり基礎を学べる書籍
- 司法試験で学習しなかった分野の1冊目にふさわしい本
初めての法律相談には事前準備が必要
弁護士会の相談担当では様々なケースの相談を受けます。

案件との出会いを通じて法律知識を広げるいい機会にもなります。
もしも、知らない分野の相談が来たらどうすればよいでしょうか。
30分の相談時間で六法を引いて判例を調べ、解釈したうえで回答することはほとんど不可能。とはいえ、うろ覚えの知識で間違った助言をしてしまえば、弁護過誤ともなりかねません。

労働法選択だったから個人再生のことは分かりません!
と開き直るわけにもいきません。(マイナーな分野を除く)
相談頻度の高い分野については、相談担当に入る前に基礎知識を習得することが不可欠です。
そこで以下では、1冊目の本として最適なおすすめの書籍を紹介します。

弁護士会でよく相談を受ける事件は、家事事件が32%で1位、以下不動産14%、損害賠償7%、労働7%と続きます。無料相談ではクレサラが24%で1位となります。(弁護士白書2021年版203ページ)
時間がない人に:法律相談前日に読むべき本
若手法律家のための法律相談入門
若手に向けて、法律相談の流れや受任に至る心得を記した本。著者はイラスト入りのブログで有名な弁護士です。
楽しんでさっと読めるため、法律相談に初めて臨む前に心構えを作るのに最適。
また、実務の基礎的なことを知るにもちょうどよい本です。端書きを含め、兄弁・姉弁に教えてもらう「ちょっとしたコツ」が豊富に紹介されています。
司法書士法もカバーしているので、簡裁訴訟代理業務認定司法書士の方にも有用です。
若手弁護士のための初動対応の実務
受任時の初動対応を謳った本ですが、法律相談にも役に立ちます。
内容は民事一般、交通事故、離婚・相続、債務整理、労働、企業法務と、主な領域をカバーしています。
この本のおすすめポイントは3つ。
1.まさに入門の書
相談で聞くべきポイントが(入門書としては)かなり厚めに解説されています。「自分は何を知るべきか」が分かっている状態に持っていけます。
2.相談で頼りになる「相談カード」
分野毎に解説内容をまとめた「相談カード」が載っています。法律相談に臨む際にこの本を手元に置いておけば安心できます。

実際、初めての相談にはこれ一冊だけ持っていく、という先生もいます。
3.次に買うべき本がわかる
「推薦図書」の項目が充実しています(合計100冊)。各分野の事件を受任する際にも、どのような本を追加購入すれば良いかがわかります。
必携 実務家のための法律相談ハンドブック
法律相談でよく遭遇する分野に絞り、ポイントを抑えた漏れのない回答をするために必要なポイントをコンパクトにまとめた本です。
説明は抑え目で「もう少し詳しく書いてあったら」と思うこともありますが、その反面、併せて聞かれることが多い税務やITについても手軽に扱っている本としては貴重。さらに学びを深めていくことは前提として、各分野の学習の土台を構築するつもりで使うとよいでしょう。
さらに深めたい人向け:分野別おすすめ入門書
【労働(労働者側)】 明日、相談を受けても大丈夫! 労働事件の基本と実務 紛争類型別手続と事件処理の流れ、書式
労働事件で著名な旬報法律事務所が手がけた書籍です。
内容は相談される頻度の高い労働事件類型に分かれており、相談で聞くべきポイントや資料などをわかりやすく説明しています。事件処理の流れや、訴状例も少数ですが載っているため、相談後に受任する場合にも役に立ちます。
【債務整理】クレジット・サラ金処理の手引
東京三弁護士会によるクレサラ書籍です。
債務整理の相談件数はとても多く、クレサラ以外の問題を主訴とするケースの背景にある複合的な問題の一要素となっていることもあるため、個人を相手にする方は必ず学習しておくべきです。
クレサラ本は数多ありますが、一冊だけ読むとすれば、基礎知識から処理方針の選び方、引き直し計算の方法や書式まで基本を網羅しているこの本を選びました。
事件処理にそのまま使える書式がCD-ROM収録で付いてきます。

ほとんどの書式が一太郎ファイルなんですが…

検察修習で一太郎ユーザーになった私には問題ありませんでした!
【離婚】事例に学ぶ離婚事件入門-紛争解決の思考と実務
現実の事案を元に執筆したストーリー形式の書籍で、事件処理の流れや思考プロセスを修習のような感覚で身につけることができます。
「企業年金は年金分割ではなく財産分与」といった法的知識から極めて実務的な細かいポイントまで、離婚事件で役に立つ基礎知識が身につきます。

「事例に学ぶ」シリーズはどれもおすすめ。若手弁護士や司法修習生が「セルフOJT」で基礎知識を学べます。全部揃えておくのもよいでしょう。
【相続】終活・遺言・相続 法律相談の準備と工夫 64の相談例から学ぶ、信頼を得る
公的相談とSNS併せて約4,000件の法律相談を行ってきた弁護士が、実際の法律相談での対話内容を掲載し、工夫するべきポイントを解説する本です。

相続分野は司法試験では軽視されがちですが、実務では頻出です。さび付いた知識を確認しておきましょう。
内容は実体法にとどまらず、
- 相談者との効果的なコミュニケーションの取り方や、
- 高齢者からの聴き取りの工夫、
- 周囲の親族と本人の意思の齟齬
など、法を正しく運用するために必要となる手続的配慮に注目して展開されており、このような事案の眺め方には非常に学びがあります。
【消費者】消費者相談マニュアル 第4版
消費者事件の被害救済に必要なポイントをまとめた本。
第1章で基本知識を抑え、第2章で法律相談での具体的事案に基づいて回答方針や回答に必要な知識を解説しています。

「仮想通貨」「オンラインゲーム」といった新しいトピックにも対応しているのが嬉しいです。(第4版)
600ページ超と重厚な本書ですが、事務所に備えておけば急な消費者相談にも落ち着いて対応できるでしょう。
【交通事故】事例に学ぶ 交通事故事件入門─事件対応の思考と実務─
事例ベースで交通事故事件の基礎を学べる本です。
前半の「第1編 交通事故事件のポイント」で基礎知識を一通り学び、後半では玉突き事故、休業損害などのトピックごとにモデルケースを題材として事件処理の流れや検討するべきポイントなどの思考を解説してくれます。
まとめ
以上、法律相談担当前におすすめの書籍を紹介しました。
分野ごと1冊を厳選したので、ここに掲載していない本ももちろんあります。ただ、相談に初めて臨んだり受任する際には、1冊目としてお勧めの本ばかりです。
弁護士会の図書館は平日昼間しか空いておらず、書店でも専門書は入手できないことがほとんど。早め早めに備えておくようにしましょう。

よく相談される事件類型の本は、どうせいつか買うことになります。
この記事が実務の手助けになれば幸いです。
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