兄弁が法テラスを解約したらしい。どうして?
法テラスと契約したら大変と聞いたけど、実際どうなんだろう
法テラスの民事法律扶助制度は、依頼者の代わりに弁護士費用を立替払いしてくれる制度。資力の乏しい方にも弁護士へのアクセスを可能にした意義があります。
でも弁護士からみると、法テラス案件には注意するべき側面も。実際、弁護士の法テラス契約率は、平成30年度の56.8%から令和元年度56.3%へと低下しています。(法テラス公式サイトより)
この記事では、実際に法テラスと契約している弁護士が、弁護士にとっての民事法律扶助のメリット・デメリットについてまとめました。
法テラスの民事法律扶助とは
法テラスの正式名称は「日本司法支援センター」。弁護士が法テラスとの間で民事法律扶助契約を締結すれば、民事法律扶助制度を利用できるようになります。
民事法律扶助の契約書類は新人研修で配られることも多いため、特に考えず流れ作業的に登録した方もいるでしょう
特に利用の機会が多いのは
- 指定相談場所で法律相談担当を行う(法律相談援助)
- 弁護士費用の立て替えを受けられる(代理援助)
の二つです。
民事法律扶助のメリット
資力の乏しい相談者を援助できる
受任すれば解決できそうな事案でも、報酬が見込めなければどうしても受任できない場合があります。法的に筋の通る主張をしている相談者を見放さなければならないのは心苦しいもの。
時には相談者から非難されることもあります。
法テラスを使えばこのような状況を解決できます。
資力の乏しい方を援助できることは、弁護士の精神面でも、まっとうな主張をしている方の権利保護という点でも、大きなメリットです。
債権管理を代行してくれる
債権管理の手間を法テラスが引き受けてくれる点もメリットです。
もし依頼者との直接契約で分割払いとなった場合、毎回の支払を確認し、遅滞があれば督促するという手間が生じます。
事務員を雇っていない場合は結構大変。
この労力を法テラスが肩代わりしてくれるのはありがたいです
民事法律扶助のデメリット
煩雑な事務作業が増える
民事法律扶助を利用すると、法テラスへの報告などの事務作業がとても多くなります。
受任(事件回付)時の審査では、「勝訴の見込みがないとは言えないこと」「民事法律扶助の趣旨に適すること」が審査員に伝わるよう、それなりに説得力のある申込書を書かねばなりません。
事件処理の途中で着手報告書、中間報告書、終結報告書を提出する必要もあります。いつ、何をしたかを記載します。事件記録や日誌を振り返って報告書を作成します。
進捗状況をマメに記録していないときは、大変な作業です
実質的ではない事務に時間を割かねばならないストレスも生じます。
裁判修習で日報を書いたのを思い出します
迅速に対応できない(あるいはリスクを甘受し対応)
法テラスを経由すると受任契約までに1~2週間はかかります。上記の手続があるためです。
こうなると、早急な対応が必要な案件では対応に迷います。保全申立やヤミ金からの取り立てを止めるための受任通知を送ることもできません。
でも、依頼者は困ってます。今すぐ対応しニャいと!
万一審査が通らなかった場合、ただ働きになってしまうリスクがあります。
そのリスクを覚悟して対応するのも弁護士として一つの姿勢ではあります。
報酬が安い
弁護士費用は代理援助立替基準(pdfが開きます)に基づき法テラスが決定します。弁護士の間では、この報酬基準が非常に安いと言われています。
本当に安いのでしょうか。家事調停を例に確かめてみましょう。
調停期日は数時間はスケジュールを空けておく必要があります。
終結まで1年かかったとすると、
✔ 所要時間 合計147時間
- 期日出席に48時間 (12回の期日×4時間と仮定)
- 起案・関係者との連絡・打ち合わせなど事件処理事務に96時間 (一回の期日準備に8時間かかると仮定)
- 法テラス関係の書類作成に3時間
金銭給付無しで終結した場合、
✔ 収入計算
- 着手金・報酬合計 26万4000円
- 所要時間 147時間
- 時給 1795円
半年で終結した場合、時給3591円。3カ月で終結としても、時給7183円です。
他方、適切な弁護士報酬については次のようなデータがあります。
上の例で言うと、3カ月のスピード解決であったとしても、法テラスの立替基準は最低限の経費すら賄えない水準と言えます。
報酬額が不明瞭
代理援助立替基準は幅を持って定めているため、依頼者への見積では「多分これくらいの金額になる」としか伝えられません。
大きな負担となる弁護士費用を明確に伝えられないことは、経済的に困窮している依頼者にとっては大きな不安となるでしょう。
また、報酬額が労力に見合わない点も良く聞かれます。
依頼者との直接契約であれば、最終的な経済的利益が大きくなくても、事件処理に要した労力を反映できますが、法テラスを介すと労力が必ずしも反映されません。良くないことですが、事件への取り組みにも影響する可能性を否定できません。
まとめ
法テラス案件は、困っている方の助けになれるというやりがいがあります。
私自身も法テラス案件を受けています。生活困窮者の相談を「見捨てるしかない」というのは、大きなストレスとなるからです。
従来は泣く泣く断るか、ボランティアとしてやるしかなかった案件を受けられるようにした点で、法テラスは大きな意味があります。ただし、他の事件で十分稼げていない状態で法テラスに手を出すというのは、ちょっと立ち止まって検討した方が良いと思います。
法テラス案件には、依頼者自身が支援を要する方であったり、対応に独特のクセがある方であったり、事件処理に時間がかかるケースが多いです。このような事件ばかり受けていると、そのうち自分自身が摩耗していき、他の案件が回らなくなる可能性があります。依頼者と共倒れになるリスクです。
依頼者のためにもご自分が一番大事です。法テラス案件の蟻地獄に陥らないように、ご自分の働き方に合った付き合い方をするようにしましょう。
手持ち案件の1割を超えないようにするとか、客観的なラインを定めるのも一つの案です
法テラスとの契約解除は、解約届(公式サイトで見つかります)をFAX一枚送るだけでOKです。
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