
初めての接見、頑張った~!
でも受任ってどうするんだっけ?書類、どこに出すの?
当番弁護で出動した後は、どの制度を用いて受任するのか、そのために必要な手続を迅速に判断する必要があります。
被疑者・被告人に資力があれば私選受任。
資力がなければ、勾留の有無やタイミングに応じて、委託援助制度を使って私選受任(のち国選に切り替え)、または国選弁護人としての受任になります。
それぞれのパターンに応じて、
- どの書類に署名・押印をもらうのか
- どのタイミングで、どの機関に提出するのか
がすべて異なります。単純な手続ですが、ミスをすると受任機会を逸したり、報酬が出ないリスクさえあります。
この記事では、以下のパターンに応じて、必要な手続だけを簡潔にまとめました。出動前に、必要な書面を確認するためにお使いください。
① 資力がある → 私選で受任
② 資力がない+勾留前 → 委託援助を利用して私選受任、勾留後に国選へ切替
③ 資力がない+勾留前 → 勾留まではあえて受任せず、勾留後に国選で受任
④ 資力がない+勾留後 → 国選で受任

刑事弁護に役立つ書籍をまとめたこちらの記事もどうぞ!
>>【現役弁護士おすすめ】初めての刑事弁護に役立つ書籍7選+α
① 資力あり →私選で受任
被疑者に資力がある場合は、原則として私選弁護人として受任することになります。
受任に必要な手続は次の3つ。どの段階でも同じ手続です。
- 委任契約書の締結
- 弁護人選任届の作成・提出
- 弁護士会への受任報告と納付金納付(当番弁護で出動した場合)
受任契約書の締結
私選受任の場合は契約書の締結が必要です。
弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を締結しなければならない。ただし、委任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が止んだ後、これを作成する。
当番弁護から受任する場合は、各弁護士会所定の様式がありますので、所属単位会のウェブサイトなどから入手しましょう。
- 本人と契約する場合 → 接見時に契約書を3通差し入れ、署名・押印をもらって2通を宅下げします。
- 家族や友人など第三者と契約する場合 → 本人から連絡先を聞いて面談のうえ、事務所で契約書を作成します。
弁護人選任届(弁選)の作成・提出
弁護人選任届は、私選弁護人として選任された事実を届け出る書類。依頼者と弁護人が連署して提出します(刑訴規則17条)。
接見時に差し入れて署名・指印をもらい、宅下げしましょう。被疑者の指印であることを証明する「指印証明」も忘れずに。
その後、次のいずれかに提出します。
- 検察官送致前 → 警察に提出
- 検察官送致後 → 検察に提出
- 起訴後は裁判所に提出
※ 提出する際は、写しを1通用意し、受領印をもらって事件ファイルに綴じておきましょう。その後、弁護人としての地位を証明する必要がある様々な場面で使う可能性があります。

弁選はポケットファイルに入れて綴じておけば、事件ファイルからそのまま取り出せて便利です
なお、警察に提出しようとして受け取りを拒否される場合があります。対処法はこちらの項目へ。
弁護士会への受任報告と納付金納付
当番弁護から私選受任した場合は、弁護士会への納付金納付が必要です。
- 受任契約書の提出:各単位会の提出先を確認して、受任契約書を提出します。
- 納付金納付:着手金や報酬金を受領した場合は、10%程度を納める必要があります。
契約内容は自由ですが、東京では、次の金額を上回る場合は報告が必要となります。
① 被疑者段階の弁護活動の着手金:20万円+消費税
② 公判請求されなかった場合(不起訴、略式起訴)の報酬金:30万円+消費税
③ 公判請求された場合、起訴後一審判決までの弁護活動の着手金:30万円+消費税
④ 一審判決による報酬金:30万円+消費税
https://www.toben.or.jp/members/iinkai/keijibengo/cat1062/post_209.html
地域によって運用に違いがあると思われますから、所属弁護士会の要領を確認しましょう。
まとめ
- Step 1接見前の準備
- 委任契約書 3通
- 弁護人選任届 1通
- Step 2接見中
- 委任契約書・弁護人選任届:依頼者の署名・指印をもらう
- 留置係に指印証明をもらう
- Step 3宅下げ
- 委任契約書 2通
- 弁護人選任届 1通
- 指印証明
- Step 4弁選提出
- 弁選のコピーをとる
- 警察or検察(or裁)に原本を提出
- 写しに受領印をもらい、持ち帰る
- Step 5弁護士会への報告
- 委任契約書を提出
- 所定の納付金を納付

ここでは、受任手続に必要な書類だけに触れています。
名刺など、そのほかに差し入れた方がよいものについては、次の記事で説明しています
>>「初めての接見、これだけ持っていけば大丈夫|若手弁護士のための持ち物リスト」
② 資力なし+勾留前 →私選+委託援助で受任、勾留後に国選切替
本人に資力がないため通常の私選受任は選択肢から除かれ、勾留前のため国選で受任することも現時点ではできません。
このパターンでは、私選弁護人として受任しつつ日弁連の「被疑者弁護援助制度(委託援助)」を利用して弁護士費用を賄い、勾留後に国選弁護人へ切り替えるという流れをとることになります。
※勾留まで受任せず、勾留後に国選で受任することもできます(後記③)。
受任に必要な手続は次の3つ。受任時と切替時の2段階にわたって手続が必要となるため、最も書類が多く、注意点も多いパターンです。
- 弁護人選任届(辞任届付)の作成・提出
- 被疑者弁護援助利用申込書の作成・提出
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書の作成・提出(念のため)
- 国選弁護人の選任に関する要望書の提出
弁護人選任届(辞任届付)の作成・提出
このパターンでは、国選弁護人に切り替えるために、勾留時に私選弁護人として辞任する必要があります。
そのため、「国選への切替のために勾留された場合は辞任する」という条件付き辞任届を兼ねた書式を使うのがおすすめ。一回の提出で済むため楽になるからです。

署名・指印は、弁選と辞任届の二か所に必要ですにゃ
通常の弁選でも問題ありませんが、その場合、勾留後に改めて辞任届を提出する必要があります。
接見時に弁選を差し入れて署名・指印をもらい、指印証明とともに持ち帰り、以下のいずれかに提出します。
- 検察官送致前 → 警察に提出
- 検察官送致後 → 検察に提出

弁選は勾留前に提出しなければ、援助報酬が支払われないので、タダ働きになってしまいます。ご注意を!
被疑者弁護援助申込書の作成・提出
勾留前の弁護活動に対する報酬を確保するため、被疑者弁護援助制度を利用します。
まずは被疑者弁護援助利用申込書を入手しましょう。

申込書なんて持ってないにゃー

こちらの日弁連サイトから書式4-1としてダウンロードできますよ
申込書を入手したら、以下の要領で作成・提出します。
- 重要事項説明書(書式3)を用いて、制度について本人に説明する
※ 重要事項説明書への署名押印は不要とされています。 - 被疑者弁護援助利用申込書を差し入れ、「申込者」欄に署名・指印をもらって宅下げ
- 他の欄を埋めて法テラスに提出。FAX可。
その後、事務所に援助決定書が送られてきますが、これを待つ必要はありません。援助決定前の活動についても報酬が支弁されます。
援助は勾留により終結するので、終結報告書を提出することもお忘れなく。6か月以内に提出する必要があります。
【勾留後】国選弁護人選任請求書・資力申告書の作成・提出
委託援助は勾留前しか使えませんので、勾留決定後は国選弁護人の立場に切り替えます。
そのために、私選弁護人としては辞任し、同時に国選弁護人として自身を選任してもらうための手続を行います。この手続を怠ると、最悪の場合、私選弁護人としての義務は継続しつつタダ働きをすることになります。

辞任届付きの弁選を出していれば自動的に辞任できるため安心です
国選弁護人選任請求書・資力申告書は、被疑者自身が勾留質問で請求することで代替できますが、弁護人からも提出しておくのが確実です。
以下の要領で作成・提出します。
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書を差し入れ、署名・指印をもらって宅下げする
- 同書面(原本)を裁判所刑事部に提出する
【勾留後】国選弁護人の選任に関する要望書の提出
「要望書」は、あなた自身を国選弁護人に選任してもらうために必要な書類です。以下の要領で作成・提出します。
- 国選弁護人の選任に関する要望書に必要事項を記入し、法テラスに提出(FAX可)
- 同書面(原本)を裁判所刑事部に提出する
その後、法テラスから指名打診の連絡、裁判所から選任の連絡を受けて、裁判所刑事部で選任書を受領します。
- Step 1接見前の準備
- 辞任届付弁護人選任届 1通
- 被疑者弁護援助利用申込書 1通
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書 1通
- Step 2接見中
- 辞任届付弁護人選任届(※二か所):署名・指印をもらう
- 被疑者弁護援助利用申込書:説明のうえ署名・指印をもらう
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書:署名・指印をもらう
- 留置係に指印証明をもらう
- Step 3宅下げ
- 辞任届付弁護人選任届 1通
- 被疑者弁護援助利用申込書 1通
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書 1通
- 指印証明
- Step 4各種書面の提出
- 弁選(原本)を警察or検察に原本を提出
- 弁選(写し)に受領印をもらい、持ち帰る
- 被疑者弁護援助制度利用申込書を法テラスにFAXで提出
- Step 5勾留後 国選切替手続
- 国選弁護人の選任に関する要望書を法テラスにFAX提出
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書、国選弁護人の選任に関する要望書を裁判所に提出
- Step 6終結手続
- 被疑者弁護援助制度の終結報告書を法テラスに提出
- 国選弁護終了報告書を弁護士会に提出
③ 資力なし+勾留前 →不受任、勾留後に国選受任
接見時点で勾留までの時間的猶予が短く、弁護人としての十分な活動が見込めない場合などには、あえて勾留まで受任せず、勾留後に国選弁護人としての選任を目指すケースもあります。
受任に必要な手続きは次の3つ。
- 不受任通知の差し入れ
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書の作成・提出(念のため)
- 国選弁護人の選任に関する要望書の提出
不受任通知の差し入れ
国選の原則的要件は資力50万円未満となっており、これを上回る場合は、あらかじめ弁護士会への私選弁護人紹介依頼を行っていることが必要となります。
私選弁護人選任申出書と一体となった「不受任通知書」は、この例外要件の充足を示す書面。提出を怠ると、資力50万円以上の場合に国選弁護人の選任が遅くなることがあります。
- 不受任通知(私選弁護人選任申出書と一体)を差し入れる
- 不受任通知を当番弁護センターにFAX送信する
国選弁護人選任請求書・資力申告書の作成・提出
選任請求書は、勾留質問の際に被疑者自身が請求できれば不要ですが、確実を期すために弁護人からも提出しておくとよいです。
以下の要領で作成・提出します。
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書を差し入れ、署名・指印をもらって宅下げする
- 同書面(原本)を裁判所刑事部に提出する
国選弁護人の選任に関する要望書の提出
以下の要領で作成・提出します。
- 国選弁護人の選任に関する要望書に必要事項を記入し、法テラスに提出(FAX可)
- 同書面(原本)を裁判所刑事部に提出する

要望書の提出が遅れると、他の弁護士が選任されることも
- Step 1接見前の準備
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書 1通
- 不受任通知書 1通
- Step 2接見中
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書:署名・指印をもらう
- Step 3宅下げ
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書 1通
- Step 4各種書面の提出
- 不受任通知書を当番弁護センターにFAX提出
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書、国選弁護人の選任に関する要望書を裁判所に提出
- Step 5終結手続
- 国選弁護終了報告書を弁護士会に提出
④ 資力なし+勾留後 →国選で受任
勾留決定後にもかかわらず弁護人が選任されていない場合です。
本人に資力がなければ、国選弁護人として受任します。勾留後であるため委託援助は使えません。
手続が遅くなると他の弁護士が国選弁護人となってしまう点には注意しましょう。
受任に必要な手続は次の2つです。
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書の作成・提出
- 不受任通知(私選弁護人選任申出書と一体)の作成・提出
- 国選弁護人の選任に関する要望書の提出
国選弁護人選任請求書・資力申告書の作成・提出
次の要領で作成・提出します。
- 国選弁護人選任請求書・資力申告書を差し入れ、署名・指印を受けて宅下げ
- 同書面(原本)を裁判所刑事部に提出する
不受任通知の作成・提出
次の要領で作成・提出します。なお、依頼者の資力が50万円未満であることがはっきりしている場合は不要です。
- 不受任通知書を差し入れ(宅下げ不要)
- 同書面を刑事弁護センター(または指定された窓口)へFAX送信
国選弁護人の選任に関する要望書の提出
接見後速やかに、以下の要領で提出します。
- 国選弁護人の選任に関する要望書に必要事項を記入し、法テラスに提出(FAX可)
- 同書面(原本)を裁判所刑事部に提出する
警察が弁選を受け取らない場合の対処法
送検前に弁選を警察に提出しようとしたとき、
「検察に出してください」「コピーなら受け取れます」と言われることがあります。
知識があやふやだと、

あれっ、そうだっけ?
と、自信を無くしてしまうもの。ですが、これは法的に誤りです。
刑事訴訟規則17条
公訴の提起前にした弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り、第一審においてもその効力を有する。
と、検察官または司法警察官が提出先としてしっかり定められています。
弁選を提出しなければ弁護人として認められないのですから、弁選受領の拒絶は、憲法34条、刑訴法30条の弁護人依頼権を侵害することになります。
憲法34条
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない
刑事訴訟法30条
被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
さらに、「連署した書面」である原本を提出しなければ、弁護人として選任されたことになりません。コピーでは選任の効力が生じないため、必ず原本を提出する必要があるのです。
警察が拒否するのは、条文を知らないことが原因である場合が多く、冷静に法的根拠を示して原本を提出するべきです。
実際、警察の言うがままコピーのみを渡したが、弁護人選任がなされていない扱いとされていたという事例もあるようです。
まとめ
当番接見後の受任手続は、本人の資力や手続段階、そして利用する制度によって必要な書類や手続の流れが大きく異なります。
特に、
- 誰と契約するのか
- どの書類を差し入れるか
- どこに、いつ提出するのか
……といった判断はシンプルですが煩雑で、単純なミスで、受任のタイミングを逸し、国選の枠を失うなど、依頼者にとっても自分にとっても不利益になりかねません。
この記事では、若手弁護士が迷いやすいポイントを、以下の4パターンに整理して解説しました:
📌 ① 資力がある → 私選受任
📌 ② 資力がない+勾留後 → 国選受任
📌 ③ 資力がない+勾留前から関与 → 委託援助で受任し、勾留後に国選切替
📌 ④ 勾留までは受任せず、勾留後に国選で受任(必要最低限の準備と手続を経て)
制度を理解し、必要な準備をしておけば、落ち着いて動けます。
そして、万一わからないことがあっても、
「今は不明なので、確認して対応します」
と冷静に伝えれば、弁護人としての信頼を損なうことはありません。
この記事が、あなたの初動を支える“頭と心の準備”になりますように。
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