弁護士賠償保険、入るべき?若手が知っておきたい基礎知識

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弁護士の働き方
若手弁護士
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弁賠保険って、入った方がいいの?

独立前後の若手弁護士にとって、これは避けて通れないテーマです。

「なんとなく入っておくもの」として流されがちですが、次の点を理解しておくことは大切です。

  • どんな場面で役立つのか
  • 何が補償されて、何がされないのか
  • 実際に保険を使うとき、どう動けばいいのか

この記事では、弁賠保険に関する基礎知識から使い方までをわかりやすくまとめています。

【結論】インハウスを除けば、基本的に「入るべき」

弁護士の仕事には、常にリスクが伴います。たとえば、期限徒過時効消滅助言ミス手続の選択ミス依頼者の個人情報漏えいなど、どれも損害賠償請求につながりかねません。

しかも、実際には弁護士に非がない場合でも、言いがかりのような形で訴えられるようなケースも珍しくありません。
そんなとき、保険に入っていなければ全て自己負担です。

数百万〜数千万円単位の損害賠償が発生すれば、事務所経営や自身の生活を直撃しかねません。そう考えると、弁賠保険は「お守り」ではなく、リスクと隣り合わせの業務における、現実的な防衛策だと言えるでしょう。

また、弁護士会によっては、法律相談名簿への掲載や案件受任のために、一定額以上の弁賠保険加入を条件とするケースもあります。イソ弁の場合でも、所属事務所の保険加入状況を確認しておくことが推奨されます。

そもそも弁護士賠償保険とは?【基本編】

提供元と加入方法

弁護士賠償責任保険(弁賠保険)には、大きく分けて2つの加入パターンがあります。

1つは、全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が提供する団体制度で、これは全弁協に加入している弁護士協同組合の組合員だけが利用できる仕組みです。もう1つは、保険会社と個別に契約する形で加入する方法です。

実際には、多くの弁護士が団体制度を通じて加入しており、個別契約は比較的少数派といえます。

補償範囲と内容の全体像

弁賠保険の補償は、「基本補償」「自動的に付帯される(自動セット)補償」「任意で追加できるオプション補償」の3つに分かれています。

基本補償では、弁護士資格に基づいて遂行した業務に起因して他人に損害を与えてしまった場合の、「法律上の賠償責任」がカバーされます。対象となるのは、弁護士法第3条に定める業務。

弁護士法第三条(弁護士の職務)

1 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び訴願、審査の請求、異議の申立等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。

2 弁護士は、当然、弁理士及び税務代理士の事務を行うことができる。

後見人や管財人として行う業務も含まれ、また、事務員などの履行補助者による行為も補償の対象になります。一方、未成年後見人の業務が除外される点は要注意です。

さらに、「受託者賠償」「施設賠償」「成年後見賠償」「サイバー賠償」が自動セットとして付帯します。簡単に説明すると、受託者賠償は、依頼者からの預かり品の損害(たとえば盗難)が対象。ただし、現金・有価証券は除外されており、別途特約加入が必要です。施設賠償では、事務所内の事故による損害(たとえば漏水による階下への損害)、および、弁護士3条以外の業務(たとえば社外取締役としての行為)による名誉毀損等の人格権侵害がカバーされます。成年後見賠償では、被後見人本人の行為によって後見人に賠償責任が生じるケース(※)がカバーされます。サイバー賠償では、情報漏えいなどが起きた場合の賠償責任、調査・復旧費用がカバーされます。

若手弁護士
若手弁護士

財産管理によって生じた損害は、基本補償でカバーされるのですね

※民法714条に基づく後見人の責任が生じる場合について、最判H28・3・1(JR東海事件)

さらに必要に応じて補償を追加できるオプション制度もあります。特に、現金・有価証券をカバーする「ロイヤーズマネーガード」、未成年被後見人による損害をカバーする「未成年後見賠償責任特約」は検討する必要があります。

保険金額と保険料の目安

支払限度額はいくつかのプランから選べるようになっています。

高額の損害が発生する可能性を考えれば、1億円以上の補償が必要だと思います。実際、加入者の約97%が1億円以上を選んでおり、スタンダードになっているといえるでしょう。

保険料は、たとえば3億円のプランで弁護士2人が加入するなら、年間9万円程度。さらに、弁理士業務、税理士業務、渉外業務を行わない場合は、補償対象外とすることで最大15%割引できます

加入単位と更新手続

事務所や法人単位での加入が推奨されています。

1年ごとの更新制であり、例えば管財事件を受ける際など、業務内容に変化があった場合には、その内容に応じて補償の見直しが必要になることもあります。

弁賠保険が役立つ場面とは

よくある補償対象のケース

典型的には、次のようなケースで保険のお世話になります。

  • 期限徒過・時効消滅 提出期限をうっかり過ぎてしまい、依頼者に損害が発生
  • 和解条項のミス 条項の抜けにより損失を招いてしまった
  • 個人情報の漏えい 鞄の置き忘れやPCのウイルス感染で、顧客情報が流出
  • 受託物の損害 依頼者から預かった権利証を紛失してしまった
  • 事務所内での事故や人格権侵害 来所者の転倒事故や、SNSでの発言が名誉棄損にエスカレート
  • 後見人としての責任 財産管理に関する判断ミスで損害を与えてしまった
  • 補助者のミス 事務員の誤送信や書類の取り違えが、弁護士自身の責任になるケース

補償されないケース(免責事由)

以下のようなケースでは保険金が支払われないことがあります。

  • 犯罪行為や故意による損害 
    たとえば、預り金の流用や横領は補償の対象外です。
  • 認識ある過失による行為 
    書面中の表現による名誉棄損・プライバシー侵害が代表例。そのほか、懲戒処分を受けた場合も、認識ある過失があったと判断されやすくなります。
  • 他人への誤返金
    単なる返還債務であり損害賠償責任ではないため、基本的に補償されません。
  • 弁護士以外の立場での業務
    公務員や、法人・企業役員・従業員としての行為による損害は、弁護士業務起因性が認められません。代表取締役職務執行者として行った行為も同様です。
  • 保険期間外の請求
    業務が保険期間中であっても、所定の請求期間(初期設定では5年)を過ぎてから請求された場合は補償対象になりません。5年を超えても時効消滅しない請求権に備えるためにも、請求期間を10年に延長することが強く推奨されます

保険を使うときの流れ

弁賠保険に入っていても、正しく手続を踏まなければ補償を受けられないことがあります。焦らず対応しましょう。

1.すぐに連絡

依頼者や第三者から損害賠償請求を受けた、またはその可能性がある事実を知った時点で、できるだけ早く保険会社へ連絡を入れます。

現金や有価証券の盗難の場合は、警察や郵便局への届出、銀行への支払停止手続などを、保険会社の指示に従って速やかに行う必要があります。

2.示談

弁賠保険には、示談交渉サービスはついていません
したがって、損害が生じた場合、被保険者自身が被害者との交渉を行う必要があります

その際注意すべきなのは、事前に保険会社の承認を得ずに賠償責任を認めたり、賠償金を支払ったりしないこと。これをしてしまうと、保険金が支払われない可能性があります。

3.保険金請求

示談や和解の見通しが立ったら、保険金の請求手続に進みます。
指定の様式に沿って、請求書や身分確認書類を提出します。

審査に使用するための資料提供を求められることもあります。保険金を速やかに受け取るためには、早急な対応が望ましいところ。

4.保険金支払

必要書類をすべて提出し、手続が完了すれば、原則として30日以内に保険金が支払われます

実際、どれくらいの弁護士が加入してる?

現役のほとんどが加入

弁賠保険への加入は任意ですが、実際の加入率は74%(全弁協)と非常に高くなっています。
これは、あくまで全弁協の団体制度だけの数字です。残りの弁護士の中には、すでにリタイアして実務を離れている人や、保険会社と個別契約をしている人も含まれています。

こうした背景を踏まえると、現役で実務に就いている弁護士のほとんどが、何らかのかたちで弁賠保険に加入していると考えてよいでしょう。

企業内弁護士(インハウス)は加入が必要?

原則として、インハウスの業務は弁賠保険の補償対象外です。
保険対象は、あくまで弁護士として独立して行う業務であるからです。

従業員として行う勤務先企業の契約書レビューや、会社役員として行う経営判断といった業務は、保険が想定している「弁護士業務」には該当しません

そのため、インハウスロイヤーは、個人事件を受任しない限り、弁賠保険に加入する必要は基本的にないと考えていいでしょう。

加入を検討するときのチェックポイント

弁賠保険は「とりあえず1億円コースに入っておく」でもよいですが、自分の業務に合ったリスクがきちんとカバーされることが何より重要です。

アキ先生
アキ先生

ご自分に合ったプランになっているか、次のチェックリストで確認しましょう!

✅ 自分の業務内容を踏まえたチェックリスト

  • 所属単位会において、保険加入が要件とされている業務はあるか?
    行う予定の業務に保険加入が要件化されている場合、加入する必要があります。
  • 未成年後見を行う予定があるか?
    行う場合は未成年後見賠償特約に加入することが推奨されます。
  • 依頼者から現金・有価証券を預かることがあるか?
    基本補償では対象外。「ロイヤーズマネーガード」を検討しましょう。
  • サイバー攻撃や情報漏えいのリスクはどれほどあるか?
    サイバー保険の「上乗せ」も検討を。
  • 弁理士・税理士・渉外業務などを行っているか?
    補償対象外に設定すると保険料を節約できます。
  • 賠償請求期間を10年に延長したか?
    必ず10年にするよう、強くおすすめします。

まとめ

弁護士賠償責任保険は、業務上のリスクに備えるための基本装備です。

加入する・しないを判断する前に、
今の自分の業務やリスクを、一度立ち止まって見直してみてください。
それが、トラブルに強い弁護士への第一歩になります。

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