事務員を雇うか否かは、独立後の弁護士にとって大きな問題です。
毎月30万円以上の負担が生じるし、人1人の生活を抱えるという責任は心理的に重いものです。事務員を雇わないという選択肢も一度は検討してみた方がよいでしょう。
ここでは、筆者自身が利用または利用を検討している、事務員を雇わない弁護士業務を支えてくれるサービスを紹介します。
電話・メール対応
事務員がいない場合、電話対応にかなりの時間を割かれます。
筆者の周囲では次の対応を取る知人が多いです。
- 電話には出ず、留守電メッセージを残してもらう。必要があれば折り返す。
- 電話対応の業者を使い、通話内容を送ってもらう。
私は電話対応の業者を利用しています。その理由は、留守番を自分で確認するよりも時短になるから。
通話先の氏名・電話番号・内容を30分以内にメールで送ってくれるので、メールを見れば要対応がか否かが一目瞭然。折り返しが必要な場合はこちらから電話します。相手方にとっても、事務員らしい人間に対応してもらう方が留守電より安心感があるようで好評です。
業者を用いる場合、法律事務所の導入実績がある「fondesk」か「Caster Biz」がよいでしょう。
Fondesk
fondeskは電話対応に特化した業者。
「○○は不在にしております。伝えますので、ご用件と折り返し先をお伺いします」と一律で応対することにより月1万円~と安価になっています。
契約期間は1か月毎・即日利用可能と柔軟。14日間無料トライアルがあるので、使ってみてどのような感じかを確認するとよいでしょう。
( fondesk )
Caster Biz
CASTER BIZは月額約12万円からと少々高めですが、柔軟に業務対応を行ってくれます。
電話対応だけでなく、リサーチや書類作成など様々な業務を依頼できます。月30時間と稼働量がそこそこあるため、案件が増え、依頼に適した業務を切り出せるようになった頃に検討するとよいでしょう。
外部への業務委託は非弁行為に注意
ここで注意しておくべきなのが、依頼する作業内容は、非弁提携にならないように注意が必要です。
電話取次などの業務を外部アシスタントに依頼する場合は非弁に注意が必要です。
- 法律事務の取扱禁止(弁護士法72条)
- 非弁提携や報酬分配の禁止(弁護士職務基本規程11条、12条)
に当たる業務を委託しないように気を付けましょう。
この点、履行補助者としての事務員の使用の要件が参考になります。
非弁行為に該当しない事務員の使用は、次のように解されています。
依頼者からの実質的な事情聴取、受任や事件処理の方針立案といった、法律事務の核心部分を弁護士自身が行うことが必要となります。
どこまで委託してOKかは、法律事務の核心か否かを考えればいいのか
事案の詳細な聞き取りはアウトかにゃ
もし判断に迷ったら、次の安全策をとるとよいです
- 法律事務の核心にあたらないことが確実な事務(定型的・一律な電話対応、FAXの転送、面談日時の設定など)のみを委託する
- 既に弁護士事務所からの委託実績がある業者に依頼する
先ほど紹介したfondesk、CASTER BIZは弁護士法人からの委託実績があります(参考:fondesk、caster biz ←弁護士インタビューへのリンクが開きます)。
FAX
物理FAXは導入やランニング費用が高く、弁護士を事務所に縛り付け、何のメリットもありません。真っ先にデジタル化するべきところです。
デジタル化すればFAXをメールで受信できるようになり、便利かつ大幅な節約になります。
eFAX
私は長らくeFaxを使っています。
FAXを完全にオンライン化して、添付メールの形で送受信できます。下の動画(1分程度)で大体の仕組みがわかるでしょう。
FAX機が不要
複合機のリース代金・ランニングコストの節約になります。
また、FAX用紙がなくなるだけで事務所から紙が激減します。事件関係の書類はそのままDropbox(後述)の事件フォルダに保存するだけ。法テラスや研修関係の連絡文書なども紙媒体ではなくなります。
紙をスキャンする手間が不要。紙の補充・購入作業が無くなるのも地味に便利です。
✔ 書面のやりとりをデジタルで完結させる小技
コツは、職印の陰影をスキャンしてPDFソフトにスタンプとして保存すること。
文書作成ソフトで作成した書面をPDFに変換しスタンプ機能で押印できるようになるため、印刷することなく書面をFAX送信できます。
電話回線なしでFAX番号がもらえる
電話回線を引かずにFAX番号が手に入ります。
東京03、大阪06を始め全国の市外局番を利用できます(選べるのは、実際の住所地の市外局番のみです)。申込時に10個くらいの番号の選択肢を示されます。いずれも、何の変哲も無い、普通のFAXに見える番号です。
メールでFAXを送受信できる
FAXを受信するメールアドレスは最大5つまで指定できます。
CASTER BIZのアシスタントのメールアドレスを追加して重要なFAXだけ転送してもらうようにすれば、広告FAXから解放されます
料金は毎月1650円~。送受信それぞれ150枚まで無料です。
煩わしい紙から解放され、費用も安くなり、テレワークの実現にも近づき、しかも通信先から見れば完全に従来のFAXと同じです。全ての弁護士がeFAXにしたらいいと思います。
電話
さらなるノマド化を目指すならIP電話という手があります。筆者はまだ使っていませんが、そのうち変えるつもりです。
IP電話とはインターネットを使う電話。電話回線を使わないため回線料金が安くなります。
従来は「050」などのいかにもIP電話という電話番号しか取得できませんでしたが、最近は03や06などの通常の電話番号が取れるサービスが出てきました。
そういえば法テラスの電話も050ですにゃ
おそらくIP電話を使っているんでしょうね
ナイセンクラウド
ナイセンクラウドはコスパのよいIP電話サービスです。
全国の市外局番や0120番号が使えて、オプションで特定番号の着信拒否や自動録音も利用可能。スマホ・パソコン・事務所のビジネスホンなど複数の電話から同じ番号で受発信できます。
efax、Dropboxと合わせて使えば、もう事務所に物理的にいなくてもほぼ完全に業務を行えます。ここまで揃えれば立派なノマド弁護士といえます。
事件フォルダ
事件フォルダをクラウド化すれば、どこからでも業務資料にアクセスできるようになります。特にこだわりがなければ、Dropbox一択です。
Dropbox
Dropboxは、パソコン内の好きなフォルダをまるごとオンラインに保存するサービス。
事務所のパソコン内のフォルダに、自宅や裁判所など場所を問わず、どのパソコンからでもアクセスできるようになります。使い方は次のチュートリアルをご覧ください。
Dropboxの威力は、業務をデジタルデータ主体にシフトしたときに最大に発揮されます。efaxとの連携により更に効率化できます。
無料版もありますが、どうせ容量がすぐ足りなるので、セキュリティが強化された有料版をお勧めします。
ソースネクスト | Dropbox Plus 3年版 | クラウドストレージサービス | Windows/Mac/Android/iOS対応 | 【正規代理店】ソースネクスト
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外回り
郵便局、法務局、裁判所への書類提出などは自分でやるしかありません。オンラインで代替できるサービスはできるだけ利用して、外回りの時間を減らしましょう。
この項で紹介するサービスは弁護士の常識レベルですが、簡単に触れておきます。
登記情報提供サービス
登記(不動産、商業、動産・債権譲渡登記)の内容をオンラインで確認できます。一件334円。
発行されるのは登記情報であって登記事項証明書ではないため登記としての証明力はありませんが、それでも利用機会は多いです。
登記事項証明書オンライン申請
不動産の登記事項証明書、公図、図面証明書の取得申請を行えます。郵送受取を選択できるため法務局へ行かずに済みます。
受付時間は平日の8時30分から21時まで。不動産登記事項証明書を郵送受取で申請すると、1通500円。
登記簿図書館
民間企業なので知らない人も多い登記簿図書館は、財産調査に使えます。所有者氏名から登記簿情報を検索できる、いわゆる「名寄せ」機能があるのが特徴。1件333円で登記情報提供サービスから情報を取得してくれます。
http://登記簿図書館.com/cpu/column/theme04/
電子内容証明
内容証明をパソコンから送信できます。おおむね1000文字以上の場合はe内容証明の方が安くなります。ワードファイルで提出。書式要件は窓口の差し出しの場合と異なり、大幅に緩和されています。
経理
円滑な青色申告のためにも、業務開始前に帳簿の管理システムを導入しましょう。
青色申告にした方がいいにゃ…?
もちろん!
青色申告のメリットは所得税、住民税、国民健康保険料が安くなること。所得額から最大65万円を控除できます。
やよいの青色申告オンライン
どれか1つ選ぶなら、やよいの青色申告オンラインをお勧めします。初年度は無料で使えます。(次年度は年間8800年、白色申告であれば永年無料。)
後述のfreeeには機能面で劣る点がありますが、1年目はとりあえず無料のやよいを導入しておき、1年かけてご自分に必要な機能を見極めれば良いかと。
もう一社比較するならfreeeです。
freee
freeeは年間11760年と比較的高いですが、クレカや銀行口座との連携が簡単にできます。事業用クレカをお使いならfreeeがいいでしょう。
30日間無料で使えます。
その他のヒント
✔ よく使うものはストック
レターパック、切手、小為替、破産申立用封筒など、よく使うものは多めにストックしておきます。
✔ 打ち合わせの効率化
打ち合わせ時間を圧縮する工夫をしましょう。相談で聞き取るべき事項をまとめたシートを作り、初回相談前に送ってもらうとよいです。相談者のレスポンスの速さの判断材料にもなります。
✔ 書式化&蓄積
頻繁に作成する書類は、少しずつフォーマット化して蓄積しましょう。
フォーマット化の作業は、外部業者への依頼にぴったりです
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